ホモデウス テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
1976年のイスラエル人歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。オンライン上の無料講義も行い、多くの受講者を獲得している。
最も有名な著書:サピエンス全史は世界的ベストセラー
近現代以前の経済の停滞
これまでの科学技術、経済の進歩は非常にゆっくりとした進歩であった。近代以前の人々は科学技術の進歩のことを考えられなかった。子孫が自分たちより高い水準の生活を送れるとは思っていなかっただろう。
理由は新しい事業のための資金調達が難しかったからである。
赤痢が毎年のように流行する中世の町に住んでいたとしよう。治療薬を見つけようと決心する。研究室を準備し、薬草や珍しい化学薬品を買い揃え、助手に給料を払い、医師の意見を聞きに回るために余剰の時間と資金が必要となる。
研究に没頭する間、自分や家族が食いつなぐお金がかかる。しかし、懐は寂しい。ここで地元の粉屋やパン屋、鍛冶屋にいずれ治療薬を見つけて豊かになった暁には返済を約束することは可能だろう。
しかし、その融資は簡単ではない。今日自分の家族を養う必要があり、奇跡の特効薬が生まれるとは思われていなかった。そこで時間を研究に取られている間に、金銭が尽きると元の畑を耕す生活に戻る。結局赤痢に苦しみ続けて次の世代に引き継がれる。
こうして経済は停滞し、科学が立つすくんだ。
現代の信頼の経済
現代人は将来を信頼する様になっている。信用に基づく経済活動の奇跡が起こったおかげで、この悪循環はようやく断ち切られた。
今日私が新薬を開発したいのに必要なお金がなければ銀行融資を受けたり、個人投資家、ベンチャーキャピタルファンドを頼ることができる。2014年西アフリカでエボラ出血熱が流行した時、この治療薬を開発した製薬会社の株はテクミラ社は5割、バイオクリスト社は9割上昇した。
中世に疫病が発生した時は上を向くのは神に自らの罪を許してもらおうと祈りを捧げる顔である。
近代では新しい致死的感染症のニュースを耳にするとスマートフォンに手を伸ばしてブローカーに電話をする。証券取引所にとっては感染症の流行さえもビジネスチャンスになるのである。
新規事業の成功が積み重なると、将来に対する人々の信頼も増し、信用も拡大し、利率も下がり、起業家は前より簡単に資金を調達でき、経済が成長する。その結果、人々はなおさら将来を信頼し、経済は成長を続け、科学もそれに足並みを揃えて進歩する。
他の大ベストセラーである
ファクトフルネスでも書かれている様に、確実に人類は前に進んでいるし、時代は良くなっている。
大腸がんの治療の進歩
大腸がん化学療法を一つとってもこの10年間で凄まじい進歩を遂げた。
FOLFOX,FOLFIRI療法が使われる様になった。さらにここ数年でXELOX、XELOIRIなどの内服併用療法の 非劣勢が示された。
2016年ガイドラインから2019年のガイドラインに至るまでのわずか3年の間で
など凄まじい勢いで大腸がんの治療が進んでいる。数年前に勉強した化学療法はすぐにアップデートする必要がある。
研修医に指導する時は今の現状はこれだ、君たちが本格的に化学療法を開始する時はさらに治療は良くなっていると指導している。
現代の科学技術の進歩は近現代以前と比較すると凄まじいし、未来への投資のお陰でこの成長は成り立っている。
積み立て投資
ビジネス目線で考えると、正しく分散された投資は勝率が高い様に感じる。人類の成長は間違いないだろうし、その成長は経済に支えられている。短期の目線での上げ下げはあっても、長期目線では正しく分散して資金を運用すればその価値も上がることが予想される様に思う。
経済は難しいので単純なものでもないかもしれないが、その様なことを考えた一冊である。
「ホモデウス」はすべての現代人の必読書と言っていいだろう。