医師の本棚

30代の男性医師。読んだ本の感想や医療情報、医学部受験のことを思うままに書きます。

ホモデウス テクノロジーとサピエンスの未来

  

ユヴァル・ノア・ハラリ

1976年のイスラエル歴史学者。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して博士号を取得し、現在、エルサレムヘブライ大学で歴史学を教えている。オンライン上の無料講義も行い、多くの受講者を獲得している。

最も有名な著書:サピエンス全史は世界的ベストセラー

近現代以前の経済の停滞

これまでの科学技術、経済の進歩は非常にゆっくりとした進歩であった。近代以前の人々は科学技術の進歩のことを考えられなかった。子孫が自分たちより高い水準の生活を送れるとは思っていなかっただろう。

理由は新しい事業のための資金調達が難しかったからである。

赤痢が毎年のように流行する中世の町に住んでいたとしよう。治療薬を見つけようと決心する。研究室を準備し、薬草や珍しい化学薬品を買い揃え、助手に給料を払い、医師の意見を聞きに回るために余剰の時間と資金が必要となる。

研究に没頭する間、自分や家族が食いつなぐお金がかかる。しかし、懐は寂しい。ここで地元の粉屋やパン屋、鍛冶屋にいずれ治療薬を見つけて豊かになった暁には返済を約束することは可能だろう。

しかし、その融資は簡単ではない。今日自分の家族を養う必要があり、奇跡の特効薬が生まれるとは思われていなかった。そこで時間を研究に取られている間に、金銭が尽きると元の畑を耕す生活に戻る。結局赤痢に苦しみ続けて次の世代に引き継がれる。

こうして経済は停滞し、科学が立つすくんだ。

現代の信頼の経済

現代人は将来を信頼する様になっている。信用に基づく経済活動の奇跡が起こったおかげで、この悪循環はようやく断ち切られた。

今日私が新薬を開発したいのに必要なお金がなければ銀行融資を受けたり、個人投資家ベンチャーキャピタルファンドを頼ることができる。2014年西アフリカでエボラ出血熱が流行した時、この治療薬を開発した製薬会社の株はテクミラ社は5割、バイオクリスト社は9割上昇した。

中世に疫病が発生した時は上を向くのは神に自らの罪を許してもらおうと祈りを捧げる顔である。

近代では新しい致死的感染症のニュースを耳にするとスマートフォンに手を伸ばしてブローカーに電話をする。証券取引所にとっては感染症の流行さえもビジネスチャンスになるのである。

新規事業の成功が積み重なると、将来に対する人々の信頼も増し、信用も拡大し、利率も下がり、起業家は前より簡単に資金を調達でき、経済が成長する。その結果、人々はなおさら将来を信頼し、経済は成長を続け、科学もそれに足並みを揃えて進歩する。

 

他の大ベストセラーである

ファクトフルネスでも書かれている様に、確実に人類は前に進んでいるし、時代は良くなっている。

大腸がんの治療の進歩

大腸がん化学療法を一つとってもこの10年間で凄まじい進歩を遂げた。

FOLFOX,FOLFIRI療法が使われる様になった。さらにここ数年でXELOX、XELOIRIなどの内服併用療法の 非劣勢が示された。

2016年ガイドラインから2019年のガイドラインに至るまでのわずか3年の間で

  1. 同じ大腸がんでも盲腸がんと直腸がんで投与される抗がん剤が別の薬剤が投与される様になった。
  2. Rmabが大腸がんで認可、AFL(ザルトラップ)が大腸がんで認可
  3. 直腸がんの手術でダヴィンチ手術が認可

など凄まじい勢いで大腸がんの治療が進んでいる。数年前に勉強した化学療法はすぐにアップデートする必要がある。

研修医に指導する時は今の現状はこれだ、君たちが本格的に化学療法を開始する時はさらに治療は良くなっていると指導している。

現代の科学技術の進歩は近現代以前と比較すると凄まじいし、未来への投資のお陰でこの成長は成り立っている。

積み立て投資

ビジネス目線で考えると、正しく分散された投資は勝率が高い様に感じる。人類の成長は間違いないだろうし、その成長は経済に支えられている。短期の目線での上げ下げはあっても、長期目線では正しく分散して資金を運用すればその価値も上がることが予想される様に思う。

経済は難しいので単純なものでもないかもしれないが、その様なことを考えた一冊である。

「ホモデウス」はすべての現代人の必読書と言っていいだろう。

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本気で稼げるアフィリエイトブログ

 

著者:亀山ルカ

オススメ度:★★★★☆

読了時間:4時間

対象:ブログ初心者(特にはてなブログ使用者)

 

亀山ルカ

twitter.com

1991年生まれ、千葉出身。立教大卒。

大学卒業後はメーカーに就職するも、合わなくて4ヶ月で退職して、ブログで成功。

主にダイエットや美容など、女性向けのブログ。

2018年12月にYouTubeチャンネル開設している。

2020年7月現在で登録者6000人。

 

本の内容はブログを始める人が収益化するまでの課程を経験を元に書いた書籍である。そもそもブログとは?どうしたら収益化できるか?などのレベルから実際に収益化して読者を増やすノウハウまでを分かりやすく解説してくれている。

 

著者のオススメははてなブログ一択。

はてなブログを開設してから、A8.netアフィリエイト登録、物販のためのAmazon楽天アフィリエイトの登録から始める一連の流れを解説してくれている。

はてなブログ解説から、収益化までを誰が読んでも分かる様に丁寧に書いてくれているので、この本に沿ってやっていけば基本は押さえられるだろう。

 

ちなみにこの本ではgoogle adsenseは推奨していないし、審査に通る方法なども一切触れていない。

 

私も初心者ですが、この本に沿っていくと、抜けていたことや知っていたけど面倒だったことも順番に潰していけたので非常にためになった。

 

今ならメルカリ、ラクマで高値で売ることが出来るので迷っている方は早めに読んでさっと売るのがいいのではないでしょうか?

世界一やさしい 米国株の教科書

著者:はちどう

オススメ度: ★★★☆☆

読了時間: 90分

 

米国株に特化しているというわけでもなく、題名の通り、株の始め方から仕組みまで最初から投資を始めることが出来るように編集されている。

アメリカ株の個別株の解説等は行っていない。

代表的なETFや日本の証券会社が運用しているアメリカ株中心の投資信託を紹介している。

個人的にはこの本に沿ってETF投資信託を買うだけで資産運用は十分と思われる。

アメリカ株の運用のコツなどというようなことはあまり書かれていない。どちらかというと説明書のような性格の強い本だと思う。

雇用統計、FRBの金融政策、GDPなどを参考にしていくべきだと再認識した。

 

本書と下のバフェット太郎氏の本を読んで、少しずつアメリカ株を初めていくとお金が増えるように思う。

動物に噛まれたら

動物に手や足を噛まれて救急外来や外科外来に来る人は非常に多いです。

何科を受診したらいいの?と思う方も多いかと思いますが、一般病院なら外科に回されると思いますが、開業医ならば内科でも対応してもらえると思います。

動物には犬や猫の場合もあるし、珍しい動物の場合もあります。人の場合もあります。

ちなみに犬の場合よりも、猫やヒトに噛まれた方が重症化することが多いです。

動物に噛まれた時の対処法を解説します。

「たそがれわんこ」の写真

おそらく病院に行けばなんとかなると思われるかもしれませんが、病院でやる前に最も重要なことがあります。

洗浄

何よりもまず、洗浄が大切です。水でちょろちょろ洗うとか、そういうレベルではなく、とにかく大量の水で洗い流すのが最も重要です。

病院に来る前に洗浄して下さい。来院して、病院で最初にやるのは洗浄なので、それならば病院に来る前に洗っておく方が効果も高いしすぐに治療に移ることができます。

 

噛まれた動物をスマホで撮影

可能なら撮影しておくと良いでしょう。担当した医師が動物に詳しいかどうかは分かりませんし、意味があるかどうかは別にして可能なら写真に残しておくといいと思います。

 

病院での治療

病院での治療は

  1. 抗生物質の治療
  2. 破傷風予防

破傷風予防のワクチンは受傷直後・1ヶ月後・6ヶ月後の3回接種を行います。

 

また、注意点ですがヒトに噛まれてしまった場合、放っておくと1週間ぐらいで膿んでくることがあります。原因は歯周病菌が多いので、それに合わせた抗生物質が処方されます。また、ウイルス肝炎HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することもあるので、噛まれたら受診するようにしましょう。

サイラムザ 抗がん剤

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胃がんや大腸がん、肝細胞癌などに投与されるサイラムザ(ラムシルマブ)の解説記事を書きます。

サイラムザは分子標的治療薬の一つで、血管新生を抑制する薬です。

がん細胞の増殖・転移には、血液からたくさんの栄養や酸素を取り込むことが必要です。その際に、元々の体の中にある血管を自分自身へ引き込み、新しい血管を作ります。こちらが血管新生と呼ばれる現象です。サイラムザはこの血管新生を抑制します。

作用機序が似ているものは、色々な癌種に使われているアバスチン(ベバシズマブ)があります。

適応
  • 治癒切除不能な進行・再発胃癌
  • 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
  • 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
  • がん化学療法後に増悪した血清AFP値が400ng/mL以上の切除不能肝細胞癌

以上のようながんに適応があります。

胃がん

胃がんの場合は1st:フッ化ピリミジン(S-1やカペシタビン)+プラチナ製剤(シスプラチンやオキサリプラチン )

2nd:パクリタキセルサイラムザ

 

 大腸がん

2nd ライン以降にFOLFIRI療法に併用できる分子標的治療薬になります。

FOLFIRI+サイラムザになります。

doctor-dokusyo.hatenablog.com

肝臓がん

www.jsh.or.jp

 

など、消化器癌では上記のような方法でサイラムザ(ラムシルマブ)が投与されます。

疲労感や下痢、嘔気、食欲不振などの通常の有害事象に加えて、サイラムザに特有の有害事象としては高血圧や鼻出血などの血管系のトラブルがあります。

そのほかには消化管穿孔などです。

現状では1stラインに投与される機会は多くはありませんが、2ndライン以降に投与される薬になります。

分子標的治療薬 アバスチン


分子標的治療薬の作用機序

がん細胞と正常細胞の違い(がん特異的機構)を標的として抗腫瘍効果を示す。

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分子標的治療薬の分類 
分子標的治療薬(大腸)

小分子化合物

マルチキナーゼ阻害剤

抗体薬

血管阻害剤

 

抗上皮成長因子受容体抗体 

大腸がんで用いられる分子標的治療薬は6種類。

胃がんで用いられるのは2種類です。

アバスチン(Bmab/ bevacizumab)

 ここでは使用機会が多い血管阻害剤のアバスチンの関する記事を書きます。

下に中外製薬の公式HPのリンクを貼っておきます。

pat.chugai-pharm.jp

作用機序

がん組織の血管新生を阻害することでがんを直接攻撃する作用がある。

適応外、慎重投与となる場合
  • 喀血の既往
  • 転移性脳腫瘍
  • 胃潰瘍など(出血のリスク)
  • 大手術の1ヶ月以内(出血のリスク)
  • 血栓傾向
  • 抗凝固療法中
  • 動脈血栓、静脈血栓の既往

などがある場合は慎重な管理が要求されます。

 

副作用
  • 高血圧
  • 蛋白尿
  • 消化管穿孔
  • 動脈血栓、静脈血栓

上記は我々が普段特に注意しているものです。

頻度が多いもの、発症したら重篤になりうるものは要注意です。消化管穿孔を起こした場合は手術となる可能性が高いため起きてしまった場合は要注意です。

と言いつつ、吐き気や痺れ、皮膚障害などの副作用はあまり報告されていないので、どちらかというと自覚症状は少ないです。検査をしない限り分からない副作用が多いので、何もなければ患者さんは苦痛なく投与されている方も多いです。

 

治療スケジュール

2週間に1回投与と3週間に1回投与の2通りの投与法があります。

併用している化学療法によってどちらの投与方法かを決定します。

 

参考にできる信頼のおけるサイトのリンクを貼っておきます。

ganjoho.jp

医者が教える正しい病院のかかり方

医者が教える正しい病院のかかり方

著者

専門は消化器外科医。

2010年京大医学部卒業。年齢は公表されていないが、現役か一浪ぐらいなら30半ばぐらいになります。京大。。。

2017年ごろから「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営して3年で1000万PV越え。

他の著書として以下の本も出版している。 

こんな人が読むべきだ
  1. 普段病院やクリニックにかかっている人
  2. 近々病院を受信しようとしている人
  3. がんと診断されてしまったがどうしたら良いか
  4. どんな風に病院を選べば良いか分からない人
内容
医療情報の集め方

ネットに怪しい、詐欺まがいの医療情報が錯綜しており、何を信じていいか一般の人には分かりにくい。また、検索エンジンで上位だからといっても、広告が入っていたりして、検索の一番上に来るからといって信じられるものではない。

がんの関連情報は国立がん研究センターのがん情報

https://ganjoho.jp/public/index.html

がいい。消化器に関する情報は日本消化器病学会のHPの[患者さんとご家族のためのガイド]

http://www.jsge.or.jp/guideline/disease/

がいいです。

どちらも公的機関のサイトなので間違いは少ないし、自分でサイトを探すよりよっぽどいいでしょう。

 

 

患者さんが知らなくて誤解しているんだろうなと我々が感じていることや、伝えたい事を患者目線から正確に伝えている。

  • 医者との関係性に悩んでいる。
  • どんな病院を選べば良いか?
  • 病院を変えたいけど、医師に気を遣ってしまってなかなか言い出しにくい

私もなんとなく思っていた答えとこの本の内容は一致している。というより、非常に標準的な考え方がきちんと正確に誠実に言語化している。筆者の山本先生の誠実さと知性の高さがこの本から伝わってくる。

非常に複雑な医療情や医療用語を正確に解説している。筆者の試行錯誤がなんとなく伝わってくる。これだけ専門外分野も含めて医療用語を正確に解説されているので、色々な医師も目を通しただろう。ゴーストライターはついていないかもしれない。

この本を読めば、なぜ医者に質問しても複雑な答えが返ってきて混乱すると感じている人がいるとしたら、理由がはっきりするかもしれません。

 

1点だけ個人的に気になったのは、特に前半部分であるが、非常に文章が固くて読んでいてしんどくなる。イラストがなくて活字ばかりということと、医療情報という、そもそも誤解を与えたら患者さんの不利益になるため安易な比喩が使えず、正確に伝える必要があるからだと思う。なので、ある程度複雑になるのは仕方ない。

私は本が好きで活字には慣れているし、医療情報は日頃から触れているが、それでも読んでいて多少疲れた。

なので、全てを正確に理解するのは困難だと思うし、その必要はない。自分に関係のある分野だけでも読んでみると非常に参考になる。

 

少なくとも嘘はないし、非常に標準的なことが正確に書かれているという点で、医療従事者でない人にも強くおすすめできる一冊だと思う。